2013/06/29

『入門医療倫理Ⅱ』メモ(2)

入門・医療倫理 (2)入門・医療倫理 (2)
稲葉 一人 蔵田 伸雄 児玉 聡 堂囿 俊彦 奈良 雅俊 林 芳紀 水野 俊誠 山崎 康仕 赤林 朗

勁草書房 2007-04-10
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第1章功利主義 水野俊誠
Ⅰ.功利主義の特徴
1.善の理論
内在的な価値をもつものは人々が享受する幸福や不幸のみとする福利主義(welfararism)として特徴づけられる。
幸福の捉え方による福利主義の区分
量的快楽主義…内在的価値を持つのは快楽と苦痛がないこと。ベンタムが主張。
質的快楽主義…ベンタムはいかなる種類の快楽も量を除けば等しい価値だとしたが、ミルは質的な差もあると主張。ある2つの快楽のどちらが高級かは両方を経験した人による多数決で判定できる。
選好充足説…選好(preferece)の充足が価値。選好が充足されるとは本人の欲求や望みが満たされることであり、そのさい快楽や苦痛が経験されたかは無関係。

2.正の理論
行為の正・不正を判断する際の究極的な材料となるのはその行為の帰結のみとする帰結主義、及びその実現の手続きである総和主義により特徴づけられる。
(1)帰結主義(consequentialism)
なんの帰結を評価対象とするかで形が変わる。(行為、規則、動機、性格など)
行為功利主義…功利原理を個々の行為に適用。
規則功利主義…功利原理を規則に適用。
(2)総和主義(sum-ranking)
関係者の効用は加算可能であり、帰結の善し悪しは効用の総和を比較することで判定できる。幸福の総量を最大化するという最大化と関係者全員の効用を公平に考慮して加算するという単純加算主義(aggregationisum)を含む。
・最大化…幸福の総量を最大化↔幸福の平均を最大化
・単純加算主義…どのような範囲の関係者の幸福を考慮に入れるか?
             →人間のみ(人間中心主義)か動物も含むか
             →共同体に属する人のみ(ローカルな功利主義)か全世界の人(グローバルな 功利主義)か
             →総量説か先行存在説か(人口を増やすことで幸福の総量を増やすことに価値を認めるか)

3.善の理論と正の理論の関係
行為の正・不正は帰結の善悪により決まる。
→最大多数の最大幸福という正の理論は幸福のみに内在的価値があるとする善の理論を基盤として成立。
功利主義の長所
・整合性、単純性、包括性を備える。
・直観を功利原理に照らして検討できる。
・どの行為や政策が正しいか実証的に研究することで、原理的には答えを出せる。
・帰結、幸福が重要という考えは多くの人が共有できる。

Ⅱ.功利主義の問題点
1.功利主義批判
(1)福利主義に対する批判
・快楽のみに内在的価値を認めることへの指摘(ロバート・ノージックの「経験機械」)。
適応的選好形成(adaptive preference formation)の問題。
 →基本的な諸権利を侵害されている人は当人の置かれている状況に対応するために大きな害悪を被ってもあまり苦痛を感じずに僅かな利益に大きな快楽を感じるようになる。
・善の多元論からの指摘。
(2)帰結主義に対する批判
・行為等の帰結以外を考慮しないため、直観に反する結論に達しうる。
行為者中立性(ある行為の正・不正は誰の視点から評価しても同じ)への批判。
・帰結主義は不適切な理由に基づいて正しい行為を要求する。
 →家族や友人を大切にするのは善い帰結のためではなく、愛情をもっているからでは?
・帰結に関する情報の不足。
(3)単純加算主義及び効用最大化に対する批判
・個人に莫大な要求をする(先進国の人は途上国の人のために多額の寄付をしなければならない)。
・全ての関係者の利益を同じように考慮する公平性への批判(赤の他人も家族も同列にするのはおかしい)。
・別種の快楽、選好充足を比較する共通の尺度はない。
人格の別個性(separateness of persons)を無視している・
 →当人自身の選択原理を社会全体にまで拡張うする効用最大化の考え方は全ての個人を一つに融合させてしまう。
・エリート主義への批判。
 →社会全体の幸福を正確に計算できる「功利主義エリート」が「凡庸」な一般大衆の教育プログラムを策定し、それに盲目的に従わせる制度が功利主義的には望ましい。

2.批判に対する応答
・功利主義批判で用いられる事例の多くは、現実の世界で起こる状況を正確に記述していない。
・批判に応えうるように理論を修正(規則功利主義の導入など)。
・功利主義が直観と対立する場合、直観を修正せよと反論する。


動機功利主義…功利原理を動機の評価に用いる。
・(行為)功利主義で評価されない友情や愛情が評価される。
・幸福を直接追求するとかえって幸福を得られなくなる(幸福のパラドックス)ので、友情などの動機から身近な人への義務を果たしたほうが結果的に社会全体の幸福が大きくなる。

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