2013/05/11

東野圭吾『手紙』

東野圭吾『手紙』


東野圭吾が嫌いな人でもこれだけは読んで欲しいと思う傑作。
強盗殺人を犯した兄をもつ主人公直貴が差別や偏見に抗いながら生きていくストーリー。「差別や偏見のない世界。そんなものは想像の産物でしかない」という直貴の言葉が重い。身内に犯罪者がいることを理由に差別してはいけないと口では簡単に言えるが、それはきれいごとに過ぎない。

ラスト場面、直貴はジョン・レノンの『イマジン』を歌おうとする。『イマジン』は物語の中で重要な意味を持つ曲である。直貴は自分に対する差別は存在して当たり前のものだと受け入れるが、それでも「差別や偏見のない世界」というものがどこかにあるのではという想いを捨てきれずにいる。


「兄貴、俺たちでも幸せになれる日が来るんだろうか。俺たちが語り合える日が来るんだろうか。二人でおふくろの栗をむいてやった時みたいに――。」

しかし物語は直貴が『イマジン』を歌うことなく終わる。

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