2013/05/11

歌野昌午『葉桜の季節に君を想うということ』

歌野昌午『葉桜の季節に君を想うということ』


このジャンルの弱点にひとつに、どういうジャンルなのかを紹介文に書くとトリックがばれやすくなることがある。道尾集秀介の『向日葵の咲かない夏』などはその典型で、あまりに有名になったために最初の数ページでラストが予想できてしまう。

しかしこの『葉桜』はたとえどういうジャンルなのか読むまえから知っていたとしても、オチを見抜くことは困難だろう。それは核となっているトリックがそれだけ意外性に富んでいるという肯定的な評価につながる反面、ラストに向けての伏線がほとんどないという否定的評価にもなる。
最初のシーンで登場人物の設定に比して明らかにおかしな行動が一度あるが、それだけでこの本の結末を予想するのは難しいだろう。
つまり真相を知っても騙されたという感覚は薄く、むしろそんな強引な話があるかという理不尽さすら感じる。

そもそも『葉桜』で一番重要なトリックは蛇足的なものに過ぎず、それがなくても話としては十分成り立っている。途中における殺人事件の謎は下手な推理小説よりはるかに質が高い。それだけにラストで明かされる真相には納得しがたい。このトリックを話に組み込む必要はあったのかと。

とはいえ全体としては非常におもしろい本であることに変わりなく、ミステリーが好きな人ならかなり楽しめる小説である。

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