沼田まほかる『痺れる』

沼田まほかる『痺れる』

昨年あたり(?)に小説家デビューした沼田まほかる。
この人の作風はなんとも鬱々とした展開で、大人の、というより熟年の恋愛小説という感じ。
正直男の人の描写がかなり不快なことが多いので、合わない人は全く合わないだろうと思う。

『痺れる』は知っている限り沼田まほかる初の短編集である。既刊の長編同様どの話にも暗いイメージがつきまとうが、短編であるゆえに『九月が永遠に続けば』、『彼女がその名を知らない鳥たち』よりはずっと読みやすい。
しかしまほかる特有のおどろおどろしさだけでなく、話によっては喜劇的なものもあり、長編にはない魅力が詰まっている。

個人的に気に入った話は「テンガロンハット」。登場する男性が果たして善良なる人物なのか、悪意ある人物なのか判断に迷うぎりぎりの行動をさせ、最終的にはとある秘密を露見させることで舞台から退場させている。もっとも沼田まほかるの書く話だから、当然その後に一ネタあるわけだが。

どの話も背筋がぞくりとする怖さに包まれているが(そしてそれがまほかるの魅力なのだが)、上述の通り他の長編よりは読みやすく、また不快な描写もほとんどないのでまほかるに初めて手を出すならこれから入るのがおすすめ。